文化財の保存にたずさわる人のための行動規範

2008年7月8日制定

前文

文化財は人や自然が作り出した、芸術的、歴史的または学術的に価値の高い有形、無形の遺産である。われわれは人類が共有するかけがえのないこの遺産を、自分たちの世代において活用するだけでなく、将来の世代のために保存しなければならない。文化財保存修復学会はそのため、文化財の保存と活用にかかわる科学・技術の発展と普及を図ることを目的とする。この目的を果たすため文化財保存修復学会会員は、専門家として責任を果たすとともに、社会の一員として社会の安全と安寧、人類の健康と歴史・文化および自然環境に対する責任を有することを自覚して行動する。また教育や普及などを通じて文化財の保存への理解を広め、この分野の発展につくす。
これらの認識の下に、文化財保存修復学会はここに行動規範を制定し、会員が守るべき規範とする。同時にこの行動規範は、広く文化財の保存にたずさわる人が守るべき規範となりうると信ずる。

1.文化財への敬意

文化財保存修復学会会員は、文化財が人類の貴重な遺産であることを認識し、文化財への敬意を持って調査・研究、公開、保存・修復処置を行う。

2.文化財の価値の尊重

文化財保存修復学会会員は、調査・研究、公開、保存・修復処置にあたっては、文化財の芸術的、歴史的または学術的価値を損なわないように、適正な方法や材料を検討して選択する。

3.安全性の確保

文化財保存修復学会会員は、調査・研究、公開、保存・修復処置において用いる方法と材料などに、文化財に対して安全であり、かつ人間の健康や環境にも配慮して適正であるものを選択する。

4.保存環境の重視

文化財保存修復学会会員は、文化財の長期的保存には保存環境の整備がもっとも重要であることを認識し、文化財にとってより良い保存環境の実現に努める。

5.自己の研鑽

文化財保存修復学会会員は、学会活動や教育・研修などの機会を通じて自らの専門的知識、能力、技術の維持向上に努めるとともに、その遂行において最善をつくす。

6.専門家との協力

文化財保存修復学会会員は、文化財の保存が芸術・歴史・文化・自然科学など多くの分野にかかわることを自覚し、調査・研究、公開、保存・修復処置において、積極的に他の専門家の協力を求める。

7.他者との関係

文化財保存修復学会会員は、他の専門家に対して誠実さと敬意を持って接し、他者の成果を適切に批判すると同時に、他者からの批判には謙虚に耳を傾け、この分野の発展に努める。

8.記録の作成・保存・公表

文化財保存修復学会会員は、調査・研究、保存・修復処置にあたっては、信頼性を確保しつつ適正な記録や報告書を作成し、適切に保存・管理するとともに、公表に努める。

9.法令の遵守

文化財保存修復学会会員は、調査・研究、公開、保存・修復処置にあたっては、関係する法令や関係規則を遵守する。また他者の知的成果、知的財産権を尊重し、これを侵害しない。

10.行動規範の遵守

文化財保存修復学会会員は、この行動規範を遵守し、他の会員にもそれをうながす。

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